中小企業の株主総会 ~ 書面決議とバーチャル株主総会
株主総会を書面あるいはバーチャル(リモート)で行う方法
株主総会は、書面やバーチャル(リモート)で実施することができます。
書面決議やバーチャル(リモート)で、中小企業の株主総会を行う方法を解説します。
中小企業では、株主総会がまともに開催されていないことも珍しくありません。
必要なとき、例えば、役員選任や増資、商号・本店所在地の変更といった登記のときにだけ開催する、あるいは議事録だけ作る、という会社様が多いのも実情です。
その理由としては、株主が身内だけのオーナー企業ゆえに手間をかけて開催する必要性が乏しかったり、少数株主がいる場合でも、これまで総会を開催せずとも誰からも文句を言われなかった、あるいは そもそもこのような機関決定が必要との認識がない、総会開催や議事録作成の方法がわからない、といったことが考えられます(*)。
一方で、中小企業が売却側でM&Aをする場合には、株主総会等の開催状況もチェック(DD)の対象になります。
過去の株主総会や取締役会について、適法に開催され、決議がされていたのかどうか、機関決定や手続に瑕疵ないかなど、経営者へのインタビューや過去の議事録の閲覧などで確認をされます。
よって、M&Aを視野に入れているのであれば、適切に株主総会を開催し、議事録を残しておくに越したことはありません。
また、ベンチャー企業でも、支援者やベンチャーキャピタルなど外部から出資を受け入れている場合には、適切な株主総会の開催による機関決定と情報提供が求められます。
そこで、今回は、株主総会(決議)の手法のうち、
① 総会を開催せずに書面決議による方法
② 総会の開催方法としてバーチャル(リモート)株主総会による方法
をご紹介します。
1.書面決議(会社法319条1項)
まず、株主全員の書面等による同意があれば、書面で決議をすることができます。
具体的には、
①取締役や株主が、株主総会での決議事項を全株主に提案し、
②その提案に対して、全株主が書面等で同意をした場合
には、その提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされます(会社法第319条1項**)。
実務的には、①と②を提案書兼同意書、という形で、ひとつの同じ書面でまとめることもよくあります。
なお、この方法で書面決議をした場合でも、株主総会議事録は作成する必要がありますので、ご注意ください(会社法318条1項、会社法施行規則72条4項)。
ちなみに、取締役会の場合と違い、この会社法319条1項による株主総会決議の省略に関しては、定款の定めがなくてもすることができます。
2.バーチャル株主総会
株主数が非常に多い上場会社と比べると、中小企業では かなり容易にバーチャル株主総会を実現できます。
株主総会への出席に関して、インターネット等を使った方法でも、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていれば、適法に出席し議決権行使をすることが認められています(***)。
現在多くの方が使われている、web会議の方法であれば、安定的な通信状態さえ確保できていれば、十分にこの要件を満たしているといえます。
よって、web会議を使って、株主総会を開くことが可能です。
web会議を使って株主総会に出席できるのは、株主に限られません。会社の社長やその他取締役も、web会議での出席が可能です。
動議や議案に対する賛否の議決権行使についても、web上でのコミュニケーションを通じて行うことになります。
1点だけ、注意事項としては、リアルな開催「場所」がまったく存在しない株主総会は、法律上認められないと解されている点です。
会社法の条文上、株主総会を招集するには、総会の「場所」を決めなければならない、と書かれているためです(会社法298条1項1号)。
一方で、株主が会場に行こうと思えば行ける状態であれば良いので、開催場所は、例えば会社の会議室や執務室などと設定(招集通知にも記載)したうえで、実際には株主全員がweb会議等を通じてリモート出席したとしても、問題はありません。
以上のとおり、特に中小企業では、バーチャル(リモート)での株主総会開催が比較的容易に実現できます。
総会で質疑などの必要もなく、淡々と決議をするだけであれば、書面決議でも良いですし、あるいは 実務上よく行われているように、招集通知に委任状を添付して、賛成の委任状を持って決議する、という方法もあります。
一方で、中小企業やベンチャー企業などでも、株主総会を通じて、支援者や株主と活発に議論や情報交換をする必要がある場合には、遠隔地からの出席も容易な、バーチャル株主総会を実施する価値も出てきます。
ぜひご活用ください。
(本文終わり)
* 中小企業であっても、法律上は、原則として最低でも年一回は株主総会の開催が必要です(会社法296条)。
** 会社法第319条(株主総会の決議の省略)
「取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。」
*** 相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔「論点解説 新・会社法 千問の道標」(商事法務 2006.6)Q637
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