新型コロナウイルス禍で中小企業のM&Aは減るか?増えるか? ~ 市場への影響
新型コロナウイルス禍で 中小企業のM&Aはどうなるか?
短期的には減ったうえで、その後は増える。
そして、M&Aの内訳が大きく変わる、と予想されます。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年4月7日、我が国で初めて政府の「緊急事態宣言」がなされました。
その後、同年4月現在、いまだ感染拡大収束の見通しは立っていません。
1. 中小企業のM&A市場はどうなるのか?
短期的には、M&Aは大きく減少するでしょう。
外出や営業自粛で、多くの中小企業が大打撃を受けており、まずは生き残ることを優先しなければなりません。
これは、売り側と買い側、双方にとって同じ状況です。
大企業のM&Aも中止や延期が報道されています。事業の先行き自体が不透明な状況で、M&Aどころではない、というのは中小企業でも同じで、むしろより深刻です。
では、しばらく経ったあとはどうでしょうか。
中小企業のM&Aに関して、個人的には、
・市場における売り側と買い側のバランスが変わるのではないか?
・廃業回避のための事業売却(M&A)が大きく増えるのではないか?
と 予想しています。
2. 中小M&Aの市場や種類が変わる
① 売り側1:買い側9 のバランスが変わる
これまで中小企業のM&A市場において、表に出るプレイヤーの比率は、売り側1に対して、買い側が9、とも言われていました。
(少なくとも表に出ている限りでは)圧倒的に、買い側でM&Aを希望する方が多かったのです。
その理由として挙げられるのは、
・そもそも会社や事業の売却を選択肢に考える経営者が少ない
・頭の中で考えはしていても、なかなかその決断や情報が表には出にくい
といったことでした。
しかし、今回のコロナ禍により、生き残りの選択肢として事業売却(M&A)を真剣に考えざるを得ない方が増えるはずです。
そして、できるだけ早く決断し、実行しなければなりません。
会社や特に事業あるいは雇用を守るため、資金面での負担を考えると、悠長なことは言ってられません。
他方で、買い側でM&Aを検討している企業も、まずは自社の足場がためをしなければなりません。
事業拡大や積極展開をできるだけの、資金や体力に余裕がある会社ばかりではないはずです。
以上のとおり、
・売り側が(消極的にでも)M&Aを目指すケースが増える
・反面、買い側でM&Aができる会社は 絞られてくる
その結果として、これまでの1:9 という売り側・買い側のバランスは、今後崩れていくのではないか、と予想しています。
② 廃業回避のための事業売却(M&A)が増える
これまでも、中小企業の後継者不足を背景とした事業売却(M&A)のニーズはありました。
いわゆる第三者承継です。
M&Aに至らず、単純廃業に至る中小企業も多くあり、社会問題になっています。
ただ、このような後継者不足の企業では、後継者問題はあるものの、当面事業は続けられる、という会社も多かったと思います。
しかし、今回のコロナ禍の影響により、一気に資金繰りの問題が押し寄せ、残念ながら、事業継続自体の危機に陥る会社さんも多く出てきています。
これまでなんとか事業自体は回っていただけに、こういった企業がいきなり廃業やあるいは倒産となると、雇用や取引先への影響も甚大です。後継者問題には、ある程度時間的猶予があったかも知れませんが、今回は即座に決断しなければなりません。
高値での売却を目指すことよりも、事業や雇用を守ること、に優先順位がシフトします。
さらには、仮に会社自体は清算、あるいは破産等の倒産処理をしなくてはならなくなるとしても、雇用や事業を守るため、事業を第三者に引き継いでもらう、という形でのM&Aが増加するのではないか、と見込んでいます。
3. コロナ禍後の中小企業
今回の感染拡大が収束したあと、日本の経済にどれだけの傷跡を残すのか、中小企業の存在や経営にどれだけの打撃があるのか、現時点では未知数です。
ただ一つ言えることは、ビフォアコロナの世界に戻ることはできず、世の中や企業の経営環境が大きく変わるであろう、ということです。
私自身も含め、多くの皆様が、今回の未曾有の禍を乗り越え、健康な社会を取り戻せることを、心から祈念しています。
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