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電子契約サービスに関してよくあるご質問 ~ 二段の推定について 【押印についてのQ&A】

電子契約サービスに関して、よくいただくご質問にお答えします。

2020年6月現在、コロナ禍の影響のもと、リモートワークや非対面取引・契約の方法を検討される会社様などから、電子契約サービスについてご質問を受けることが、特に増えています。

今回は、電子契約サービス等における電子署名の裁判上の取り扱いや立証についてご説明し、また2020年6月19日付けで公表された「押印についてのQ&A」(内閣府、法務省、経済産業省)をご紹介いたします。

 

1.電子契約サービスは裁判の証拠として信用できるのか?

「法律上の推定効がないとも聞くが、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「なりすましだと主張されたら、そうでないことを、こちらが立証しなければならないが、そんなことできるのでしょうか?」

というご質問をよくいただきます。

結論としては、
各事業者のサービス内容にもよるのですが、

・一般的な電子契約サービスに いわゆる「二段の推定」が適用されないことは事実である。

・しかし、二段の推定が働かないこと自体は、電子契約サービスにおける 立証上の致命的な欠陥にはならない。

といえます。

 

契約当事者がそれぞれ電子署名を付する場合には、いわゆる「二段の推定」(*)による法律上の推定が働きます。

「二段の推定」とは、簡単にいうと、文書に作成者の押印や電子署名があれば、文書が真正に成立したと、法律上推定される、というものです。

注意点としては、文書の成立が真正 = 作成名義人が真実の作成者、と判断されるだけ、という点です。文書の内容が信用できるかどうか、事実かどうか、は別問題であり、内容が真実かどうかは、「二段の推定」ではそもそも推定されません

 

一方、電子契約サービスに話を戻すと、実は、シェアを伸ばしている大半の電子契約サービス提供事業者が採用しているのは、契約当事者ではなく サービス事業者が電子署名を取得する方式です。

そして、この方式の場合、いわゆる「二段の推定」が適用されません。
(それでもあえて この方式を採用されているのは、利用者の利便性を優先してのことです)

その代わりに(本人性について 法律上の推定が及ばない代わりに)、本人が 契約したことの確認・立証材料として、各サービス提供事業者は、本人認証の手続を厳格にして対応しているのが実情です

 

本人認証の手続としては、例えば、

・登録メールアドレスへのアクセス

・アクセスコード(パスワード)の入力

・SMSへのワンタイムパスワードの送信・利用時の入力

・登録時の身分証明書の確認

といった方法があります。

 

これらの本人認証が行われた資料を示せば、なりすましでないことの立証は、例えば、印鑑が無断で使用された と立証するのと比べて、むしろハードルは低いかも知れません。

さらに、「二段の推定」が適用されないことに対する利用者の懸念に対応するため、例えば、国内発のサービス事業者(国内トップシェア)では、よりきめ細やか対応として、訴訟になった場合の裁判所向け説明資料も サービスパッケージとして用意したりしています

これらからしても、「二段の推定」が適用されないこと理由として、電子契約サービスを利用しないという選択肢は、もはや合理性に乏しい、と言えるかも知れません

 

 

2.そもそも本当に押印や二段の推定が必須なのか? ~ 「押印に関するQ&A」

押印に関する、法的な考え方、裁判における証拠上の位置づけ等に関して、

本日、内閣府、法務省、経済産業省が連名で、「押印についてのQ&A」を公表しました
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00095.html

「今般,テレワークの推進の障害となっていると指摘されている,民間における押印慣行について,その見直しに向けた自律的な取組が進むよう,押印についてのQ&A【PDF】を作成いたしました。」と公表意図を述べています。

このQ&Aでは、冒頭で、

契約書への押印は必須ではない、特別な場合を除いて 押印がなくても契約の効力には影響しない、と示しています。

 

さらにQ&Aの回答のなかには、以下のような記載もあり、” 二段の推定、ひいては判子のによる押印の有無にあまりに拘泥するのは 合理的ではない” というようなメッセージが読み取れます

「・・・・推定が及ばない場合でも、文書の成立の真正は、本人による押印の有無のみで判断されるものではなく、・・・・他の方法によっても文書の真正な成立を立証することは可能であり、本人による押印がなければ立証できないものではない」(問3のA)

「・この二段の推定により証明の負担が軽減される程度は、次に述べるとおり、限定的である。」(問4のA)

「・なお、3Dプリンター等の技術の進歩で、印章の模倣がより容易であるとの指摘もある。」(問5のA)

 

3.まとめ

契約書に実印を押してもらい、さらに印鑑証明書をセットで受領すれば、少なくとも本人が契約書を作成したと「推定される」という意味で安心なのは事実です。

しかし、だからといって、内容まで真実とまでは推定されません。また、本人が契約書を作成したことは、仮に推定が働かなくとも、他の方法でも十分に立証可能です。

 

電子契約サービスで得られる多くの利便性、コストメリットなどを考えると、少なくとも、「法律上の推定が働かない」ということだけを理由に、利用を控えるのは、もはや合理性に乏しいとも考えられます。
自社の環境をふまえ、積極的にご利用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

* 二段の推定とは?

「文書の真正=作成名義人が真実の作成者であること」が、二段階で推定されるものです。

1段目の推定:私文書の作成名義人の印影がその名義人の印章によって顕出された場合は、反証のない限り、その印影は本人の意思により顕出されたと推定される(最判昭和39年5月12日)

2段目の推定:私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」(民事訴訟法228条4項)

印影が本人の印鑑であれば、本人の意思で押したと推定され(1段目)、本人の押印があれば作成名義人が真実の作成者と推定される(2段目)、ということになります

例えば、実印が捺印されていることを 印鑑証明書などで立証すれば、この二段の推定が容易に適用されることになります。

また、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)で、一定の要件を満たす電子署名があれば、真正の成立を推定するという規定もあります(電子署名法3条)

 

なお、「推定」というのは、それを覆す証明(反証)がない限り ある事実があったものと取り扱われる、ということです。

逆にいうと、反証があれば、事実とは扱われないことになります。

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