デューディリジェンス(DD)とは
DDの目的や効用
1.目的
DDの目的は、取引対象の情報を得ることにつきます。
ここでいう「情報」とは、「M&Aにかかわる様々な意思決定に必要な、判断材料となる情報」のことです。
M&Aの取引対象(会社や事業)は、同じものがこの世に二つとない一点物です。
このため、取引を進めるかどうかの判断をするには、取引対象である会社や事業についての情報を得なければはじまりません。
買い側において、取引対象が自社にとって本当に必要か、価格と取引対象が見合っているか、買った後に問題になるような不備がないか、買った後にうまく事業を運営できるか、といった事柄を判断するために、ビジネスや事業構造にかかわる情報(ビジネスDD)、財務状況の実態や収益性、価値評価(財務DD)、法的リスクの有無やリスクへの対処可能性(法務DD)などを調査のうえ、情報を得ることが必要になります。
1-2.外部専門家などに依頼する場合
DDの効果や効率、成果を最適化、最大化するためには、この「情報を得る」という大きな目的を前提に、さらに、どのような点につきどのような情報が重点的に必要か、ということを、あらかじめDDの調査担当者とも共有・整理し、目的意識を明確にしてDDを実施することが肝要です。
外部にDDを依頼する場合、相談した先が、実施前にこのような目的意識やポイントを積極的に確認してくれるようであれば、安心して依頼できる専門家の可能性が高いと思います。
また、DD結果として提出される調査報告書(レポート)が良い成果物かどうかを見極める一つのポイントとして、提供された情報の見やすさ、わかりやすさ、があります。
案件によりますが、レポートに盛り込まれる情報はそれなりのボリュームになるのが通常で、量が多ければ多いほど、情報の位置づけや重要性が、読み手にはわかりづらくなります。
このため、膨大な情報のうち、どの情報がどのような意思決定や判断に影響するか、その情報をもとにどういう対処が考えられるか、その情報やリスクの重要度・優先順位、といった点が、一目で把握・理解できるよう、一覧で網羅的に記載されているレポートは、利用者のことをよく考えた、使い勝手の良い成果物であるといえます。
2.DDの効用
① 意思決定に必要な判断材料が得られる
DDの目的と重複しますが、DDによって得られる情報は、買い側における様々な意思決定の判断材料になります。
例えば、以下のような例が挙げられます
- ・そもそも取引を実行するか?
→ 想定していた価値やシナジーが見込めない、重大な法令違反や必須の許認可などが引き継げないなどの場合には、取引中止の判断に至ることもあります。
- ・どのような取引のスキームを選択するか?
→ 税務上の問題から、会社分割等の組織再編を利用する、あるいは簿外債務のリスクが大きいことが判明したため、株式譲渡から事業譲渡等に変更する、など。
- ・買収価格や支払条件をどうするか?
→ DDの結果、資産価値や収益性が当初想定していたよりも低いことが判明した、あるいは簿外債務や顕在化する可能性の高い偶発債務が判明したため、買収価格や支払条件を見直すなど。
- ・最終契約にどのような内容を盛り込むか?
→ リスク事項の具体的な内容に応じて、クロージングまでに売り側の責任でリスク事項を解消・改善する義務を定めたり、リスクが顕在化した場合の売り側の補償義務を定めるなど。
- ・その他の対象会社・事業に関する課題にどう対応するか?
→ 労務管理体制の不備などが判明し、クロージングまでにこれらの不備や課題の解消が難しい場合に、買い側がリスクを許容し、M&A実施後の課題として改善する、など。
② 最終契約に盛り込むべき内容の抽出
DDで問題やリスク、あるいは不確定要因などが判明した場合でも、直ちに取引を中止するわけではありません。
問題やリスクが、どの程度のインパクトなのかを明らかにし、どのような契約の定めで対処するか、を抽出できることも、DDの効用です。
問題やリスクの内容によっては、(価格に反映させたうえで)買い側がリスクを許容したり、リスクが顕在化した場合の責任などを最終契約に定めることで対処することもあります。
問題やリスクへの対応を最終契約に委ねる場合、一般的に用いられる主な手法としては、以下が挙げられます。
- ・クロージングまでに問題やリスク等を解消・改善することを売り側の義務とし、その義務が果たされたことを取引実行の条件とする(いわゆる「クロージングまでの売主の義務」「クロージングの前提条件」など)
- ・買収の対価を一部後払いとし、一定期間内に問題やリスクが顕在化しないことを支払の条件とする、あるいは顕在化して損害が生じた場合には、残代金から差し引く
- ・問題やリスクが見込まれる事項について、売り側の表明保証を求め、違反した場合の補償義務を定める(いわゆる「表明保証」「補償義務」)。
③ DDレポートを会社の重要情報のデータベース代わりに利用できる
各種のDDレポートは、相応の時間とコストをかけて専門家が作成した調査結果の報告書ですので、対象会社や事業に関する重要情報のデータベースにもなりえます。
- ・基礎情報などについて、レポート作成時点での正確な情報の記録となる(商品案内や取扱説明書としての機能)
- ・過去の業績等についての把握、分析結果が一覧できる
- ・会社や事業に関連する重要書類や内容等のインデックスとして使える
中小企業では、会社の情報が理路整然と書面で整理されていないケースが多く、むしろそちらの方が一般的といえます。
このため、DDレポートは、買い側にとって、M&Aの検討中はもちろんのこと、無事M&Aが実行されたあとの、事業に関わる参照資料としても利用価値が見込めます。
また、売り側がセラーズDDなどにより、事前にレポート類を作成していれば、候補先への売り込みに際しての、有力な材料になりえます。