会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案の公表と実務への影響について
令和8年3月18日、法制審議会の会社法制部会において「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」が取りまとめられました 。
今回の改正検討は、近年の社会経済情勢の変化に鑑み、株式発行や株主総会の在り方、企業統治の規律を見直すことを目的としています 。
本コラムでは、多岐にわたる検討事項の中から、特にスタートアップの成長支援や、
上場・非上場問わず企業の法務・総務実務において影響が大きいと思われる重要ポイントに絞って解説いたします。
1.従業員等に対する株式の無償交付制度の拡充
近年、国内外の優秀な人材確保やエンゲージメント向上のため、取締役だけでなく従業員等に対しても株式を付与するニーズが高まっています 。
しかし現行法上、上場会社の取締役等以外への無償交付は認められておらず、実務上は「現物出資構成」という技巧的な手法が採られてきました 。
改正案の概要:
従業員等に対しても、取締役会の決議(または株主総会の枠決議)によって直接的に株式の無償交付を可能とする枠組みが提案されています 。
実務上の影響と対象:
(1) 対象企業
当面は株価の客観的算定が容易な上場会社が中心ですが、非上場会社についても引き続き検討対象とされています 。
(2) 運営
従来の技巧的な手続(金銭債権の付与と現物出資の組み合わせ)が不要となり、スタートアップや成長企業におけるインセンティブ設計の事務負担が大幅に軽減されることが期待されます 。
2.バーチャルオンリー株主総会の一般化
現行法上、場所の定めのない「バーチャルオンリー株主総会」は産業競争力強化法の特例措置として、大臣の確認を受けた一部の上場会社に限定されていました 。
中間試案では、これを会社法の恒久的な制度として位置づけることが検討されています 。
改正案の概要:
定款に定めることで、物理的な会場を設けない株主総会の開催を認めるものです 。
実務上の影響と対象:
(1) 対象企業
上場会社のみならず、非上場会社を含むすべての株式会社が対象となります 。
(2) 運営
遠隔地の株主が出席しやすくなる一方、通信障害対策措置(冗長化された通信手段の確保等)を合理的な範囲で講じることが求められます 。
万が一の通信障害時における決議の効力についても、会社側に故意・重過失がない等の一定条件下で決議取消を回避する「セーフハーバールール」の導入が提案されています 。
3.株主提案権の要件見直し(濫用防止)
投資単位の引き下げが進む中、極めて少額の投資で株主提案権(300個以上の議決権)を得られるケースが増えており、制度の濫用が懸念されています 。
改正案の概要:
現行の「300個」という固定的な数値基準を廃止して議決権割合基準(100分の1以上)に一本化する案や、数値を「1000個」等に引き上げる案が提示されています 。
実務上の影響と対象:
(1) 対象企業
主に発行済株式数が多い上場会社や、投資単位が小さい会社に影響します 。
(2) 運営
株主総会への対応コストが過大になることを防ぐ狙いがあります。
あわせて、会社側の準備期間を確保するため、提案の期限を現行の「8週間前」から「10週間前」等に前倒しする案も議論されています 。
4.その他の中間試案における主要論点
今回ご紹介した論点のほかにも、中間試案では以下のような重要な項目が盛り込まれています。
・株式交付制度の見直し:子会社の追加取得や持分会社・外国会社を子会社とする場合への適用拡大 。
・現物出資制度の合理化:スタートアップの知財出資等を念頭に、株主総会の特別決議があれば検査役の調査を不要とする制度の導入 。
・実質株主の確認制度:会社が信託銀行等の仲介機関を通じて、背後の指図権者(実質株主)を確認可能とする仕組みの創設 。
・開示の合理化:事業報告と有価証券報告書の内容の重複を解消し、一本化を可能とする見直し 。
・企業統治の規律:指名委員会等設置会社における取締役会の権限強化や、業務執行取締役との責任限定契約の許容 。
これらについては、また別の機会にご紹介させていただきます。
中間試案は現在パブリック・コメントに付されており(令和8年5月22日まで)、今後の議論の動向が注目されます 。
当事務所では、引き続き法制審議会の状況を注視し、企業の皆様に役立つ情報を発信してまいります。
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